くは名も聲も聞いた事のないもののみである。僅に姿を見せて飛ぶは鴨樫鳥に啄木鳥位ゐのもので、その他はたゞ其處此處に微妙な音色を立てゝゐるのみで、見渡す限りたゞ青やかな森である。
中に水戀鳥といふのゝ啼くのを聞いた。非常に透る聲で、短い節の中に複雜な微妙さを含んで聞きなさるゝ。これは全身眞紅色をした鳥ださうで自身の色の水に映るを恐れて水邊に近寄らず、雨降るを待ち嘴を開いてこれを受けるのださうである。そして旱《ひでり》が續けば水を戀うて啼く、その聲がおのづからあの哀しい音いろとなつたのだと云ふ。
私は此處に來てつく/″\自分に鳥についての知識の無いのを悲しんだ。あれは、あれはと徒らにその啼聲に心をときめかすばかりで、一向にその名を知らず、姿をも知らないのである。山の人ものんきで、殆んど私よりも知らない位ゐであつた。
石楠木《しやくなぎ》のこの山に多いのをば聞いてゐたが、いかにも豫想外に多かつた。そして他の山のものと違つた種類であるのに氣がついた。さうなると植物上の知識の乏しいのをも悲しまねばならぬことになるが、兎に角他の石楠木と比べて葉が甚だ細くて枝[#「枝」は底本では「技」と誤記]が
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