た所の小村で郡内屋と別れ、ルツクサツクの重みを快く肩に背に感じながらわたしはいい気持で歩き出した。直ぐ、西湖に出た。小さいながらに深く湛へてゐるこの湖の縁を歩きつくした所に根場《ねんば》といふ小さな部落があつた。所の祭礼らしく、十軒そこそこの小村に幟が立てられ、太鼓の音が響いてゐた。
不図見ると村に不似合の小綺麗なよろづ屋があつた。わたしは其処に寄り、酒と鑵詰とを買ひ、なほ内儀の顔色をうかがひながらおむすびを握つて貰へまいかと所望してみた。お安いことだが、今日は生憎くお赤飯だといふ。なほ結構ですと頼んで、揃つた夫等を風呂敷に包んで提げながら、其処を辞した。今朝、雨や舟やで、宿屋で此等を用意するひまがなく、また急げば昼までには精進湖《しようじこ》まで漕ぎつけるつもりで立つて来たのであつた。然し、次第に天気の好くなるのを見てゐると、これから通りかゝる筈の青木が原をさう一気に急いで通り過ぎることは出来まいと思はれたので、店のあつたのを幸ひに用意したのであつた。
樹海などと呼びなされてゐる森林青木が原の中に入つたのはそれから直ぐであつた。成る程好き森であつた。上州信州あたりの山奥に見る森木
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