は秋めいた光のかげにくつきりと浮き出て見えて居る。
或日、とりわけて空の深い朝であつた。食後を縁側の柱に凭《よ》つてゐたが、突然座敷の妻を見返つた。
『オイ、俺は今から松輪まで行つて来るよ、いゝだらう。』
『今から?』
とは驚いたが、兼ねて行き度がつてゐるのを知つてゐるので、留めもしなかつた。
『そして、いつお帰り? 今夜?』
『さア、よく解らんが、彼処に宿屋があるといふから気に入つたら一晩か二晩泊つて来やう、イヤだつたら直ぐ帰る。』
幾らか小遣銭を分けて貰つて私はいそ/\と家を出た。風が砂糖黍の青い葉さきに流れて、今日も暑くなりさうな日光がきら/\と砂路に輝いてゐる。
道路を外《そ》れて直ぐ浜に出た。下駄を脱いで手頃の縄に通して提げながら高々と裾を端折つた。波打際の濡砂の上を歩いてゆくと、爪先が快く砂に入つて、をり/\は冷たい波がさアつと足の甲を洗ふ。
今日も風が出てゐた。渚から沖にかけて海はしら/″\とざわめいてゐる。不図目をあげると思ひも寄らぬ方にほんのりと有明月が残つてゐた。沖の波に似た白雲の片々《かけら》が風に流れて、紺深く澄み入つた空の片辺に、まつたく忘れられた
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