やうとはどうも考へにくい事であつた。
 館山寺前の入江を出た船は袋の口の樣な細い入口を通つてまた他の入江に入つて行つた。此處はやや大きく、引佐細江《いなさほそえ》といふ。細江の奧、下氣賀《しもけが》で船を乘換へた。今度の小さな發動機船は入江を離れて、堀割りに似た都田川といふを溯るのである。川の西岸にうち開けて、ひたひたに水をたゝへてゐる廣田には何やら藺《ゐ》の樣なものがいちめんに植ゑ込んである。乘合の婦人に尋ぬると、あれはルイキユウ[#「ルイキユウ」に傍点]ですとのことであつた。
 氣賀町《けがまち》に上つた私は迷つた。豫定どほりだと其儘輕便鐵道に乘つて終點奧山村に到り半僧坊に詣でて一泊、翌日は陣座峠といふを越えて三河に入り、新城町《しんしろまち》に病臥してゐる友人を見舞ひ、天氣都合がよければ鳳來寺山に登つて佛法僧を聽く、といふのであつた。が、氣賀町には我等の歌の結社創作社社友Y――君が住んでゐた。自分の身體の具合もあるので今度は途中誰にも逢はないで行き過ぎるつもりで出て來たのだが、サテ、實際その人の土地に入り込んで見ると一寸でも逢つてゆきたい。それこそ玄關でゝも逢つて、それから輕便鐵
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