おめエたちは一體何處で何の身分で、何をしに斯んなところに來たのか、といふのが彼の話題の第一であつた。根掘り葉掘り訊いた上、
『どうも、さつぱり解らねエ。』
と諦めた。そして代りに自分自身の事を語り始めた。何處何處の生れで、何處其處とさんざ苦勞をした揚句、今では斯んな所に引つ込んで何とか線の線路工夫をしてゐると語つた。
『線路工夫……?』
と聞きとがめると、Y――君が、
『いゝエ、電燈線の線路工夫でせう、此頃この邊に引かれた電燈線があるのです。』
と説明した。
眼白でも飼はねばなア、斯んな山の中では何の樂しみもねエ、と言ひながら彼は立ちがけに、私のころがして置いた空壜を取りあげて、これ、貰つて行くよ、酢を入れとくにいゝからナ、とどんぶりに入れた。
我等も程なく其處を立つた。するとまた眼白籠が路ばたの枝に懸けられ、鳥ばかりが高音《たかね》を張つて、見※[#「※」は「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11、読みは「まわ」、204−6]してもその主人公はゐなかつた。
『ア、あんな所に!』
見れば成程、路から一寸離れた櫟《くぬぎ》や小松の雜木林の中に立ててある眞新しい電柱の上に登つ
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