人は半白以上の白髮、あとの一人にもこの頃めつきりそれが見えだして來たといふ二人はわれさきにとその小さい粒の實を摘みとつてたべた。
八合目ほどの所の路ばたによく囀る眼白鳥《めじろ》の聲を聞いた。見れば其處の木の枝に籠がかけてあつた。見※[#「※」は「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11、読みは「まわ」、202−15]すと近くの木蔭に壯年の男がしやがんで險しい眼をして我等を見てゐた。聲をかけて通りすぎると程なく峠、丁度時間もいゝので用意の握飯を出して晝にした。私は半僧坊で二合壜を仕入れて來てゐたので先づそれにかゝつた。するとY――君も亦た一本とり出して、とても一本では足るまいと思つて……、と笑ひながら差出した。松の蔭で、あたりには遲い蕨などが萌え立つて居り、三河路の方から涼しい風が吹きあげて來た。
其處へ先刻の男が眼白籠を提げてやつて來た。そして變な顏をして立ちどまつてゐたが、其儘其處に坐つてしまつた。Y――君は持つてゐた盃をさしたが、酒は大嫌ひだとて受けなかつた。三十前後の屈強な身體で、眼尻のたるんだ、唇の厚ぼつたい男であつた。話好きと見え、ほゞ三四十分の間、一人で喋舌つてゐた。
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