居る。窓に倚りかゝりながら、私はいよ/\耐へ難いさびしさを覺えて來た。そして、端なく京都の友人の言つてゐた言葉を思ひ出して、そそくさと部屋を出た。
案の如くその宿院から石段を一つ登れば一軒の茶店があつた。其處で私は二合入の酒壜を求めながら急いで部屋へ歸つて來た。出來るなら飯の時に飮み度いが、今通りすがりに見れば食堂といふ札の懸つてゐる大きな部屋があつた。飯は多分其處で大勢と一緒に喰べなくてはなるまいし、ことに寺院附屬のこの宿院で公然と酒を飮むのも惡からうと、壜のまま口をつけやうとしてゐるところへ、薄暗い窓のそとからひよつこり顏を出した者がある。十四五歳かと思はれる小柄の小僧である。
「酒買うて來て上げやうか。」
「酒……? 飮んでもいいのかい?」
「此處で飮めば解りアせんがナ。」
「さうか、では買つて來て呉れ、二合壜一本幾らだい?」
「三十三錢。」
それを聞きながらこの小僧奴一錢だけごまかすな、と思つた。たつた今三十二錢で買つて來たばかりなのだ。
「さうか、それ三十三錢、それからこれをお前に上げるよ。」
と、言ひながら白銅一つを投り出してやつた。
犬の樣に闇のなかに飛んで行つた
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