も霧も忘れてゐた。
サテもう出ようと湯槽の縁に眼を開くと、丁度さうして仰ぐにいゝ具合になつてゐる向う岸の崖山の端のところを相變らず霧は走つてゐた。が、もう其處の霧も薄らいでゐた。そして薄らいだ霧のなかゝら何とも言へぬ鮮かなみづみづしい空の色が見えて來た。それこそ滴るやうな水色の空であつた。わたしはふら/\と先刻眞白な荒瀬の渦の中に見た水の深みのうすみどりを思ひ浮べてしみ/″\といかにも早春らしいその空の色に見入つた。
底本:「若山牧水全集第八巻」雄鶏社
1958(昭和33)年9月30日初版1刷
入力:柴武志
校正:小林繁雄
2001年2月8日公開
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