けた。今度は溪の流が見えて來た。天城山の雪解のため常より水の増してゐる激流は大きな岩と岩との間をたゞ眞白になつて泡だち渦卷きながら流れてゐる。その雪白な荒瀬のなかのところ/″\にうすらかな青みの宿つてゐるのをすらわたしは認めた。夜はいよ/\明けて來たのである。
また湯槽に歸つた。溪に見入つてゐた間に霧はよほど薄らいでゐた。と共にしゆつ/\と流れ走る速度の速さはよく見えた。そして終《つひ》にその流の斷間々々に向う岸の、切りそいだ樣に聳えてゐる崖山の杉の木の青いのが見えて來た。
宿醉《ふつかよひ》はいよ/\出て來た。霧を見るのをやめ、眼を瞑ぢてをると、だう/\と流れ下つてゐる瀬の音が、何となく自身の身體の中にでも起つてゐる樣に思ひなされて來た。
三度び窓に腰かけた。其儘《そのまま》その窓を乘り越えて溪端の岩の上にでも立ちたいほどの身體のほてりである。然し、流石に雪解の風は冷たい。
『一體、今日の天氣はどうなのだらう』
わたしは杉の森の茂つて居る崖山の端に空を求めた。が、其處はまだ霧が深くつて何ものも見えなかつた。
もう一度湯の中に入つた。
のぼせたせゐか、暫しの間わたしは瀬の音
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