らはれぬ夜なるかな黒きダリヤの蔭に飲みつつ
はなやかに咲けども何かさびしきは鶏頭の花の性《さが》にかあるらむ
伸び足りて真赤に咲ける鶏頭にこのごろ咲くは西づける風
くれなゐの色深みつつ鶏頭の花はかすかに実をはらみたり
今、考へてみると不思議に私はコスモスの歌を作つてゐない。
薄の花を虫にたとへたならば先づこほろぎではあるまいか。さほどに際立つたものでなく、サテいつ聞いてもしみ/″\させられるはこほろぎである。
わがねむる家のそちこち音《ね》に澄みてこほろぎの鳴く夜となりにけり
こほろぎのしとどに鳴ける真夜中に喰ふ梨の実のつゆは垂りつつ
使ひ終へていまたてかけしまな板の雫垂りつつこほろぎの鳴く
こほろぎと同じく、飼つておくわけでもないに部屋のうちに来て鳴く虫に茶たて虫といふがゐる。かげろふのずつと小さな様な虫で、ほとんど眼にもつかぬほどであるが、よく障子の桟にとまつてゐて鳴く。声とてもほのかなものではあるが、聞くとなく耳の傾けらるゝ侘しい音色である。夜ふけなど、ともすると時計のちくたくと聞違へることもあり、時計虫とも呼ばれてゐる。茶たて虫と
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