思ひ出のみは永久に私に『秋』のおもひをそゝる。
では、最も早く秋を知らせるのは何であらう。
私は先づ女郎花《をみなヘし》を挙げる。
この花ばかりは町中を通る花屋の車の上に載つてゐてもいかにも秋らしい。同じ車の上にあつて桔梗なども秋を知らせないではないが、どうもそれは概念的で、女郎花の様に感覚から来ない。
ましてこれが野原の路ばたなどに一本二本かすかに風にそよいでゐるのを見ると、しみ/″\其処に新しい秋を感ずる。
この花、たゞ一本あるもよく、群つて咲いてるのもわるくない。
をとこへし、これは一本二本を見附けてよろこぶ花である。あまり多いとぎごちない。
女郎花咲きみだれたる野辺のはしにひとむら白きをとこへしの花
僅かに一本二本と咲き始めたころに見出でて、オヽ、もうこれが咲くのかと驚かるゝ花に曼珠沙華《まんじゆさげ》がある。私の国では彼岸花といふが、その方が好い。
これこそほんたうに一本二本のころの花である。くしや/\に咲き出すとまことに厭はしい。
曼珠沙華いろ深きかも入江ゆくこれの小舟のうへより見れば
東京の、三宅坂から濠越に見る宮城の塀の近くに唯だ一個
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