けそれが斷えて、まばらな雜木林となつてゐた。無論もう一つ葉も枝にはついてゐない枯木の林だ。其處へほつとりと日がさして、風も吹かず、鳥も啼かない。まことに静かだ。
不圖《ふと》私は自分の眼の前にこまかにさし交はしてゐるその冬枯の木の枝のさきに妙なものゝ附いてゐるのを見つけた。初めは何かの花の蕾かとも思つた。丁度小豆粒ほどの大きさで幾重かの萼《がく》見たやうな薄皮で包まれてゐる。然し、いま咲く花もあるまい、さう思ひながら私はその一つを枝から摘み取つて中をほぐして見た。そしてそれが思ひがけないその木の芽であることを知つた。木の芽と云ふが、それが開いて葉となる、あれである。
一つ葉も殘つてはゐないと云ふものゝ、ほんの昨日か一昨日散つてしまつたといふほどのところであつた。さうして散つてしまつたと見ると、もう一日か二日の間に次の年の葉の芽が斯のやうに枝ぢゆうに萌え出て來て居るのである。私はまつたく不思議なものを見出した樣な驚きを覺えた。
これら高山の、寒いところの樹木たちは斯うして惶しい自分等の生活の營みを續けてゐるのである。暫らくもぼんやりしてゐられないのだ。少しの時間をも惜んで、自分を伸
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