眼につく。さほど高いといふでないが他とやゝ離れて孤立し、あらはに禿げた山肌は時に赤錆びて見え時に白茶けて見えた。そしてその頂上から、また山腹の窪みから絶えずほの白い煙を噴いてゐる。考ふるまでもなくそれは乘鞍嶽に隣つてゐる燒嶽である。
 私は前から火山といふものに心を惹《ひ》かれがちであつた。あらはに煙を上げてをるもよく、噴き絶えてたゞ山の頂きをのみ見せて居るも嬉しく、または夙うの昔に息をとゞめて靜かに水を堪へてをるその噴火口の跡を見るも好ましい。で、永滞在のつれ/″\に私は折があればその尾根に登つてこの燒嶽の煙を見ることを喜んだ。そしてどうかして一度その山の頂上まで登つて見たいと思ひ出した。が、もう其處に登るには時が遲れてゐて、宿屋の主人も番頭も私のこの申し出でに對して殆んど相手にならなかつた。止むなくそれをば斷念して、せめてその山の中腹を一巡し、中腹のところどころに在ると聞く二三の温泉にでも入つて來ようと思ひ立つた。
 私はまた温泉といふものをも愛してをる。同じ温度の湯でも、たゞの水を人の手で沸かしたものより、この地の底の何處からか湧いて來る自然の湯にいひ難い愛着を感ずるのである。色
前へ 次へ
全8ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング