と言ひさま彼女の手から引つとつて中を見た。
『コチラヘキタアスユク』
シズオカ局發である。
妻とたゞ眼を見合せた。
『生きてたナ!』
といふ感じが、言葉にならずに全身に浸み巡つたのである。
電報は二通であつた。他の一通の發信人には『トシヲ』とある。
『トウケウミナブ ジ アンシンセヨイマヨコハマニユク』
發局は同じく靜岡だ。
『道彌さんが生きて歸つて、それに利雄さんがことづけたのだ。』
と直ぐ思つた。
皆無事、の範圍は解らないが兎に角に重な人たちに事の無かつたとだけは解してよろしい。
泣くとも笑ふとも解らぬ顏を突き合せて夫婦はなほ暫く無言のまゝ縁側に立つてゐた。
『オイ、今日のお晝には一杯つけるのだよ。』
嚴として妻に命令した。地震記念に私は永年の習慣となつてゐた朝酒と晝酒とをやめる事に三四日前からなつてゐたのだ。
九月六日附、「再度上京の時」と脇書した鉛筆の葉書が十一日に中島花楠君から來た。あとで思つたのだが恐らくこれは高崎の停車場あたりで書かれたものだらう。
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貴方のお宅もお見舞ひせず、失禮。遂々本所の兩親弟妹四人が完全に燒死したといふ悲し
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