たが、それは場所がきまつてゐた。今度もツイその氣でゐると、座敷が漏る、茶の間が漏る、玄關、奧座敷、二階などは天井の板の目に列をつらねて落ちてゐる。噐具を片寄せる。疊をあげる。不圖《ふと》氣がついて一つの押入をあけて見ると其處の布團はぐつしよりだ。周章《うろた》へて他のをあけて見ると其處も同斷である。臺所、便所にまでポチ/\と音が聞えだした。僅かに離室とそれに隣つた湯殿とだけが無事だ。湯殿は早速物置になつた。
其處へ例の「風説」がやつて來た。今夜から土地の青年團が夜警をするから、庭の木戸など一切締めずに彼等の通行に自由ならしめて貰ひ度い、と達して來た。
『恐いなア、おとうさん、どうしませう。』
子供たちは眞實顏色を變へてゐる。
四日の夜なかであつた、たゞならぬ聲で私を呼ぶ者がある、一人ならぬ聲だ。三日の雨から庭に寢るのをよした代りに、雨戸はすべてあけ放つてあるので、早速私はその聲の方へ出て行つた。
見ると五六人の青年が一人の男の兩手をとり、肩を捉へて居る。呆氣にとられてよく見ると、捕へられてゐる男は古宇で別れて來た、生方君であつた。急に私の方に來たくなり、夜みちをしてやつて來る途
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