柱が眼に見えて斜めになり、且つそれから直角に渡された雙方の横木がぐつと開いてゐるのに氣がついた。
 とおもふと私は横つ飛びに階子段の方へ飛び起きた。同時に階下の納戸《なんど》の方で内儀の
『二階の旦那!』
 と叫ぶ金切聲が耳に入つた。が、その時にはその人より私の方がよつぽど速く前の庭にとび出してゐた。
 すると、ゴウツ、といふ異樣な音響が四方の空に鳴り渡るのを聞いた。見れば目の前の小さな入江向うの崎の鼻が赤黒い土煙を擧げて海の中へ崩れ落つるところであつた。オヤオヤと見詰めてゐるとツイ眼下の、宿から隣家の醫師宅にかけて庭の塀下を通つてゐる道路が大きな龜裂を見せ、見る/\石垣が裂けて波の中へ壞れて行つた。
 これは異常な地震である、と漸く意識をとり返してゐるところへ、また次の震動が來た。地響とか山鳴とかいふべき氣味の惡いどよみが再び空の何處からか起つて來た。村人の擧ぐる叫びがそれに續いてその小さな入江の山蔭からわめき起つた。
 三度、四度と震動が續いた。そのうち隣家醫師宅の石塀の倒れ落つる音がした。それこれを見てゐるうちに先づ私の心を襲うたものはツイ眼下から押し廣まつて行つてゐる海であつた
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