澄んでゐます。この宿には湯が二個所に湧き、而かもその五六分通りは捨ててしまはねば熱くて入り得ぬといふ有樣です。ですから少し浴場を作り變へたら所謂千人風呂位ゐ直ぐ出來るでせう。
正月の三ヶ日あたりは流石《さすが》にこみます。今年は地震のあとで例年の樣なことはあるまいと思つてゐると、もう三十日あたりから滿員になつたとの事でした。客は學生が多く、次に老人です。何しろ來る道中が道中だものだから、身體の弱い人、氣の弱い人、または時間にきびしい制限のある人たちには一寸出かけて來られないのです。
その正月の混雜は先づ四五日に半減され、七日か八日に及んで更に半減されます。そしてそれから後は次第に平常の靜けさに歸ります。今年も十二三日になるとこの大きな宿に僅か五六人の客がゐるだけでした。それも論文を書く學生とか少々リウマチの氣のあるといふ老人とかですから靜かなものです。
たゞ困るのは女中の不馴なことゝ粗野なことですが、聞けば正月とか暑中とかの書入時には近所の民家の娘たちを雇ひ入れるので、客や帳場で小言でも言へばどん/\歸つてゆくとかで、致しかたのない話です。で、私はこの一二年をば半自炊の氣でやつて
前へ
次へ
全10ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング