單にそれだけではありません。いろ/\の樹木がその日向に向いた山に生えてゐます。先づ竹の林が眼につきます。杉の木立の、冬の日にうす赤く錆びてゐるのが見えます。何の木だか、竹箒の樣にその落葉した枝や梢をこま/″\と張りひろげて立つてゐるのがあります。楠かタブの木か、みつちりと黒く茂つた若木もその間に立ち混つてゐます。
斜め上りになつてゐる澤の奥のつめの所に一竝び細く杉の木立の立ち續いてゐるのはいかにも靜けく明るく眺められます。またすぐその下に續いて寧ろ淡黄色をした竹の林がこまかな葉を日光に晒して立つてゐるのもいかにも柔かな眺めです。それからは例の櫟の林、名もない木立の冬枯、やがて枇杷の畑、蜜柑の畑。
すべてが明るく、すべてが柔かく、すべてが暖かです。そしてすべて其處におちついて眺められます。大きくはないが、まつたく靜かです。
湯は海岸寄りの中濱といふのと、山の窪地に沿うて五六町入り込んだ奥の番場といふ二部落に湧いてゐます。私は毎年その中濱の方のこの宿に來てゐますが、ツイ裏が山の根がたとなつてゐて海にも近く、湧く湯の量も甚だ豐かです。
弱鹽類泉とかいふのださうで、無色無臭、實によく
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