海を受けた僅かの平地の土地なのです。
もう一つ土肥の土産物に小土肥海苔《をどひのり》、八木澤海苔《やぎさはのり》といふのがあります。小土肥は西に、八木澤は東に、共にこの土肥から二十町ほどを距てた漁村ですが、其處で取れる海苔をそれ/″\に斯う呼ぶのです。淺草海苔などの樣に粗朶《そだ》に留つたものを取るのでなく、荒浪の打ち寄せる磯の大きな岩の肌に着いた海苔を板片などで搖き取つて乾すものです。ですから風味もずつと違ひます。私などどちらかといふとこの荒磯の味を好む者ですが、惜しいかな製法が未熟なため、ともすると中に貝殼のかけらや砂の屑などが入つてゐます。中で小土肥海苔の方は其處の岩が滑かなため、八木澤のよりややその混入物が少ないといふことになつてゐます。
西南に海を控へ北と東に山を負うて僅かな平地を持つた土地と先に言ひましたが、その僅かな平地は一つの小さな流に沿うてやゝ深く東の方へ切れ込んでゐます。そしてその平地の兩側は例の雜木の山、果物畑の山となつてゐるのです。
もう少し私はこの雜木林の山のことをお話したい。一體、君は雜木林といふものがお好きでしたか知ら。
櫟林とだけ言ひましたが、
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