ゐます。即ち炭から水から茶道具酒道具寢道具を一切自分の部屋にとり寄せておいて隨時自分の氣の向いた時に飮んだり寢たりするのです。至つて成績がよろしい。
單に女中に限らず、帳場そのものからほゞそれに近いものなのです。不自由と云へば不自由、親しみの眼で見れば却つてなまなかに開けた温泉よりいゝ氣持です。
二つある湯殿の一つにはよく日が當ります。六疊敷ほどの湯槽《ゆぶね》が三つに爲切《しき》つてあり、その一つの隅にぼんやりと一人入つてゐますと、ツイ側に落ちてゐる湯口の音のみ冴えて、いつ知らずうと/\としたくなる靜けさです。眼の前の湯の中に動いてゐる微塵《みぢん》に似た湯垢の一つ/\にはかすかに虹の樣な日光の影が宿り、湯槽の縁から溢れ出る湯は同じくほがらかに日が當つて乾き切つてゐる流し場の一端に細い小波をたてゝ流れて行つてゐます。
湯槽からあがつてその流の中に横たはりますと、身體半分は温浴、半分は日光浴が出來るといふ有樣です。
西風が立つたとなればあはれです。
眞正面から打ちつけて來る怒濤の響がまつたく一人でゐる時など、戸障子を搖するかと聞ゆる時があります。
二日續き、三日續くとな
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