十五歳』と並べて書いてあるのであつた。
大正七年の初夏であつた。私は京都に遊んで、比叡山に登つてすぐ降りて來るといふでなく、暫く滞在したい希望で、山上の朝夕をいろいろ心に描きながら登つて行つたのであつた。登りついたのは夕方で、人に教はつてゐた通り、大勢の人を泊めて呉れるといふ宿院といふに行き、取次に出た老婆に滞在のことを頼んだ。ところが老婆の答は意外であつた。今はたゞ一泊の人を泊めてあげるだけで、滞在の人は一切泊めることはならぬ規則になつてゐるのぢや、といふのだ。イヤ、今までよく滞在させて貰つたといふ話を聞き、その積りで登つて來たので是非さうして貰ひたい、と頼むと、今までは今までや、ならんといふたらならんのぢや、といふ風で、まご/\するとその夜の泊りも許されまじい有樣となつた。止むなく、私はどうか今夜だけ、と頼んで漸く部屋に通された。老婆がその通り、給仕に出た小僧も亦た不愉快千萬な奴で、遙々樂しんで來たこの古めかしい山上の幻の影は埓《らち》もなくくづれてしまつた。
で、翌朝夜があけるのを待つて宿院を出た。すぐ下山しようとしたが、斯んな風では恐らく二度とこの山に登る氣にもなれまい、來
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