樹木とその葉
青年僧と叡山の老爺
若山牧水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)爲事《しごと》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]すと

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)どや/\と
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 一週間か十日ほどの豫定で出かけた旅行から丁度十七日目に歸つて來た。さうして直ぐ毎月自分の出してゐる歌の雜誌の編輯、他の二三雜誌の新年號への原稿書き、溜りに溜つてゐる數種新聞投書歌の選評、さうした爲事《しごと》にとりかゝらねばならなかつた。晝だけで足らず、夜も毎晩半徹夜の忙しさが續いた。それに永く留守したあとのことで、訪問客は多し、やむなく玄關に面會御猶豫の貼紙をする騷ぎであつた。
 或日の正午すぎ、足に怪我をして學校を休んでゐる長男とその妹の六つになるのとがどや/\と私の書齋にやつて來た。來る事をも禁じてある際なので私は險しい顏をして二人を見た。
『だつてお玄關に誰もゐないんだもの、……お客さんが來たよ、坊さんだよ、是非先生にお目にかかりたいつて。』
 坊さんといふのが子供たちには興味を惹《ひ》いたらしい。物貰ひかなんどのきたない僧服の老人を想像しながら私は玄關に出て行つた、一言で斷つてやらう積りで。
 若い、上品な僧侶が其處に立つてゐた。あてが外れたが、それでもこちらも立つたまゝ、
『どういふ御用ですか。』
 と問うた。
 返事はよく聞き取れなかつた。やりかけてゐた爲事に充分氣を腐らしてゐた矢先なので、
『え?』
 と、やや聲高に私は問ひ返した。
 今度もよくは分らなかつたが、とにかく一身上の事で是非お願ひしたい事があつて京都からやつて來た、といふ事だけは分つた。見ればその額には汗がしつとりと浸み出てゐる。これだけ言ふのも一生懸命だといふ風である。何となく私は自分の今迄の態度を恥ぢながら初めて平常の聲になつて、
『どうぞお上り下さい。』
 と座敷に招じた。
 京都に在る禪宗某派の學院の生徒で、郷里は中國の、相當の寺の息子であるらしかつた。幼い時から寺が嫌ひで、大きくなるに從つていよ/\その形式一方僞禮一點張でやつてゆく僧侶生活が眼に餘つて來た。學校とてもそれで、
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