樹木とその葉
或る日の晝餐
若山牧水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)若《も》しくは

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)はら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 或る日の午前十一時頃、書き惱んでゐる急ぎの原稿とその催促の電報と小さな時計とを机の上に並べながら、私は甚だ重苦しい心持になつてゐた。
 机に兩肱をついて窓のそとを見てゐると頻りに櫻が散つてゐる。小さな窓から見える間に一ひらか二ひらか、若《も》しくははら/\とうち連れて散り亂れてゐるか、その花片の見えない一瞬間だに無い樣に、ひら/\、ひら/\、はら/\と散つてゐる。曇り日の濕つた空氣の中に何となく冷たい感觸を起しながら、あとから/\と散つてゐる。割合に古木の並んだ庭さきのその木の梢にはまだみつちりと咲きかたまつてゐるのだが、今日はもう昨日の色の深みはない。
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