ことは酒の後でなくては出來ず、また夜なかでなくては出來ぬ話である。
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野末なる三島の町の揚花火月夜の空に散りて消ゆなり
うるほふとおもへる衣《きぬ》の裾かけてほこりはあがる月夜の路に
天の川さやけく澄みぬ小夜更けてさし昇る月の影は見えつつ
路ばたの木槿《もくげ》は馬に喰はれけり (芭蕉)
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この句は私の大好きな句である。延いて木槿の花も好きなものゝ一つとなつた。
秋の來たのを知らせる花で先づ咲き出すのはこの木槿であらう。夏のうちから咲くのであるが、彼の『土用なかばに秋風ぞ吹く』のこゝろもちで、どんな暑い盛りに咲いてゐてもこの花には秋のこころが動いてゐる。紫深い、美しくてさびしい花である。
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走り穗の見ゆる山田の畔ごとに若木の木槿咲きならびたり
畑の隈風よけ垣の木槿の花むらさき深く咲き出でにけり
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底本:「若山牧水全集 第七卷」雄鷄社
1958(昭和33)年11月30日発行
入力:柴 武志
校正:浅原庸子
2001年3月20日公開
2005年11月14日修正
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