も咲き出でた樣に鮮かな純黄色の大輪の花を大空に向けて咲いてゐるのを見ると、まつたく眼のさめる思ひがするのである。窓からさした電燈の光で見ると、蜀黍の葉の兩側には點々として露の玉が宿つて居り、なほよく見るとその葉のまんなかどころにちよこなんと一疋の青蛙が坐つてゐる。不思議にこの葉にはこのお客樣が來てゐるものである。
 ぢいつとそれらに見入つてゐると、その畑の中から蟋蟀《こほろぎ》の鳴く音が聞ゆる。もうこの蟲が鳴き出したかと思つてゐると、遠くでは馬追蟲の澄んだ聲も聞えて來るのである。
 夏の末、秋のはじめの斯うしたこゝろもちはいかにも佗しいものである。
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愛鷹山《あしたか》の根に湧く雲をあした見つゆふべ見つ夏のをはりとおもふ
明がたの山の根に湧く眞白雲わびしきかなやとびとびに涌く

畑なかの小みちを行くとゆくりなく見つつかなしき天の川かも
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 沼津の町から私の住んでゐる香貫山の麓まで田圃の路を十町ほど歩いて來ることになる。
 をり/\町に出て酒を飮む。客と共にすることもあり、獨りの時もある。そしてそれは多くは夜で、その歸りは大抵夜なかの一時とな
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