樹木とその葉
虻と蟻と蝉と
若山牧水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)靡《なび》いて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)よれ/\
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 光を含んだ綿雲が、軒端に見える空いつぱいに輝いて、庭木といふ庭木は葉先ひとつ動かさず、それぞれに雲の光を宿して濡れた樣に靜まつてゐる。蝉の聲はその中のあらゆる幹から枝から起つてゐる樣に群り湧いて、永い間私の耳を刺して居た。
 數日續いた暴風雨のあとで、今朝屆いた雜誌を一册載せたばかりの机の上には冷たい濕氣が浸みてゐた。讀むともなく開いた表紙の折目の蔭になつた隙間に口に含んだ煙草の煙を吹き込むと雜誌の向側から直ぐ眞白な濃い煙がさアつ[#「さアつ」に傍点]と机のおもて一面に擴がつて出た。そして机のしめりに浸み込む樣にベツトリ[#「ベツトリ」に傍点]と木地にくつ着いたまゝ這ひ擴がつてゆくのみで少しも
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