樹木とその葉
夏の寂寥
若山牧水
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)柘榴《ざくろ》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)にや/\と笑ひながら、
−−
わが家の、
北に面した庭に、
南天、柘榴《ざくろ》、檜葉《ひば》、松、楓《かへで》の木が
小さな木立をなしてゐる。
南天の蔭には、
洗面所の水が流るゝため、
虎耳草《ゆきのした》、秋海棠《しうかいだう》、齒朶《しだ》など、
水氣を好む植物が
一かたまりに茂つて、
あたりは一面の苔となつてゐる。
その中の柘榴《ざくろ》の木に、
今年はひどく花がついた。
こまかな枝や葉の茂みから
清水でも滲み出る樣に
眞紅な花が咲き擴《ひろ》がつた。
初め一輪二輪と葉がくれに咲き、
やがてその葉の色をも包んで、咲き盛ると
いちはやくまた一輪二輪と散り出した。
厚い花辨の中に無數の蘂《しべ》をちぢらせた
眞紅な花が、
一つ二つと散り出した。
それを眞先きに見付けたのは、
私の子供たちだ。
五歳と八歳の二人の娘は、
毎朝早起をしてその花を拾ひ競うた。
そして二三日のうちに飽《あ》いてしまつた。
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