葉の呼吸が萌え立つてゐるのであつた。
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朝づく日峯をはなれつわが歩む溪間のわか葉青みかがやく
朝づく日さしこもりたる溪の瀬のうづまく見つつ心しづけき
溪合にさしこもりつつ朝の日のけぶらふところ藤の花咲けり
荒き瀬のうへに垂りつつ風になびく山藤の花の房長からず
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溪間と云へばおほく其處に多い温泉を見逃がすわけにはゆかぬ。谷にそつた川原湯温泉は吾妻川に臨んだ斷崖の上に在つて、非常に靜かな、景色もいゝ所である。其處から、少し下つて中之條町より左折した一支流の谷間には四萬《しま》温泉がある。また、澁川から利根川の方へ溯ればその本流に沿うて十幾個所かの温泉が出てゐるのだ。私の其處を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り歩いたは秋であつたが、若葉の頃、ことに細かな雨のそゝぐ曙《あけぼの》など、人知らぬそれら谷間の湯にひつそり浸つてゐるのは決して惡くあるまいと思ふ。
東京近くの溪では秩父《ちちぶ》であらう。信越線熊谷驛から入つて三峰山に登る間の溪流、それから東京山手線の池袋驛から武藏野を横切つて飯能《はんのう》に到り、其處から沿うて上つてゆく名
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