きく「ヤサ、カァ」と開き上げて行く。
どうかして「萬歳」の代りにこの「いやさか」を擴め度い、聞けば君は世にひろく事をなしてゐる人ださうだから、君の手によつてこれを行つて貰ひ度い、それをいま頼みに行かうと思つてゐたのだ、と翁は語られた。
これは筧《かけひ》克彦博士が初めて發議せられたものであつたとおもふ。翁もさう言はれた。そして翁は多年機會あるごとにこの實地宣傳を試みられつゝあるのださうだ。
何かで筧博士のこの説を見た時、私は面白いと思つたのであつた。端なくまた斯ういふところで思ひがけない人からこの話を聞いて、再び面白いと思つた。然し、一方は口馴れてゐるせゐか容易に呼び擧げられるが、頭で考へる「い、や、さ、か」の發音は何となく角ばつてゐて呼びにくいおもひがした。その事を翁に言ふと、翁は言下に姿勢を正して、おもひのほかの大きな聲で、その實際を示された。思はず額を上ぐるほどの、實に氣持のいゝものであつた。
「いッ」と先づ脣と咽喉と下腹とを緊め固めて、一種氣合をかける心持で、そして徐ろに次に及び、最後の「かァ」で再び腹に力を入れて高々と叫び上げるのださうである。
私は悉く贊成して、そ
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