店から出した散文集『和歌講話』また然りである。
 いつまでもその漁村に引込んでゐるわけにゆかず、大正五年の夏から私だけ上京して本郷の下宿に住んで原稿などを書いてゐた。その間に出來た歌を輯めたのが『白梅集』である。これはまた歌の姿が『朝の歌』とは急に變つてゐるのが不思議なほどだ。ひどく神經衰弱的で、そしてすべてが絶望的な主觀で滿ちてゐる。謂はゞ『みなかみ』をきたなくした樣なもので、それだけまた鋭くなつたとはいへるであらう。
 これは妻の歌との合著になり、内藤※[#「金+辰」、第3水準1−93−19]策君の抒情詩社から出したものであつた。當時妻も恢復して上京し、小石川の金富町に住んでゐた。
『寂しき樹木』はその次、巣鴨の天神山に移つた頃、出したものであつた。これはよく『砂丘』の詠みぶりに似通つたもので、即ち夏の輝やかしさとその光の中に疲れて居る自分の心とを詠んだ歌が一册の基調をなしてゐる。細いけれど、何處にか光を含んだものとしてこの本を振返ることが出來る。これは本郷邊の印刷所に勤めてゐた青年が(その以前籾山書店にゐた關係から歌集出版などに眼をつけてゐたと言つてゐた)突然訪ねて來て叢書の中の
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