て恰好《かつかう》な空家は無いかと探し始めた。自身はもとより、手の及ぶ限り知人たちにも頼んであちこちと探した。
さて、無かつた。極く小さな家ならばぼつ/\と眼についたが、泊り客の多いこと、また毎月出してゐる自分達の歌の流派の機關雜誌の事務室の必要なこと等から、どうでも六つの部屋を持つた家でなくては都合が惡く、その見當で探すとなると、一向に見あたらなかつた。偶々あつたとすると、それは避暑避寒地としての貸別莊向に建てられた家で、家賃が大概月百圓を越してゐた。
たうとうこの家探しの騷ぎのために夫婦とも頭を痛くしてしまつた。その間、私はおちついて机に向ふ餘裕を失つて、爲事の方もすつかり支《つか》へてしまつた。其處へ、頼んでおいた或る友人から斯ういふ家があるがどうかと言つて來た。いま現に建築中のもので間數は玄關女中部屋を入れて五室、場所は市内千本濱の松原の蔭だといふ。餓ゑては食を選ばず、私は少なからず喜んだ。ではそれで我慢するとして雜誌發行の事務室だけをばまた他に間借りでもする事にしようと、早速その示された場所へ出懸けて見た。松原の蔭はよかつたが、ツイ背後に私立の女學校があり、僅かの田圃を距
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