たこの島からの友人のたよりは、割合深く私の心にしみたのであつた。そして、終《つひ》に其處に出かける氣になつた。
秋のダリヤの盛りの頃であつた。一本の木草すら無いといふその島には恰好《かつこう》の土産であらうと私はそれを澤山買つて行つた。先づ靈岸島から汽船で下田まで行き、其處で彼も吾も好物の酒を買つて第二の手土産とした。下田から一週間おきに燈臺通ひの船が出ることになってをり、その船で水から米、其他燈臺守たちの必需品を運ぶのであった。前に友人からよく樣子を知らして來てあつたので、都合よくそれに便船する事が出來た。下田を出ると、船は忽ち烈しい波浪の中に入つた。何處でも岬のはなの浪は荒いものであるが、其處の伊豆半島のとつぱなは別してもひどかつた。それは單に岬だけの端といふでなく、其處には無數の岩礁が海の中に散らばつてゐた。形を露はしたものもあり、僅かに其處だけに渦卷く浪によつて隱れた岩のあるのを知る所もあつた。それらの岩から岩の間にかもされた波浪は、見ごとでもあり凄くもあつた。船には大勢の船頭が乘り込んでゐた。
多分今日の船で來るであらうと、友人は朝から雙眼鏡を持つて岩の頭に立つてゐたのだ
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