る航路標的所何とかいふ、つまり燈臺守の學校であつた。六ヶ月間の學期を無事に終へて、初めて任命されて勤めたのが、この神子《みこ》元島《もとじま》燈臺であつた。そしてかれこれ一年あまりもたつたであらうか、漸く自分も從來の放浪生活の非をしみ/″\覺つて、今後眞面目にこの燈臺守の靜かな朝夕の裡に一生を終へようと思ふ樣になつた、さう決心すると同時に郷里に歸つて妻をも貰つて來た、この心境の一轉を見るために一度この島に遊びに來ないか、といふ風の手紙を二三度も私の所によこしてゐたのであつた。
 彼ほど徹底してはゐなかつたが、私もまた彼のいふ放浪生活の徒の一人であつた。學校を出て、一箇所二箇所と新聞社にも出て見たが、何處でも半年とはよう勤めなかつた。轉じて雜誌記者となつたが、これも三四ヶ月でやめてしまつた。自分等の流派の歌の雜誌を自分の手で出して見たが、初めは面白くやつてゐても直ぐ飽きが來た。さうかうしてゐるうちにいつか自分もひとの夫となり親となつてゐた。さうしてその日の米鹽すら充分でない樣な朝夕をずつと數年來續けて來てゐたのである。さういふ場合だつたので、今まではさういふ島があるといふ事すら知らなかつ
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