あわ》てゝ小舟を濱からおろした。解《わけ》のわからぬまゝに私も促されてそれに乘つた。二人は漕ぎ、一人はせつせと赤い小旗を振つてゐた。
入江の中ほどに來ると、その發動機船は徐ろに停つた。我等の小舟はそれを待ち受けてゐて、漕ぎ寄するや否や一齋に向うに乘り移つた。私もまた同樣にさうさせられた。そして、引つ張られてとある場所にゆき、勢ひよくさし示された所を見て思はず聲をあげた。
この大型の發動機船の船底は其儘一つの生簀《いけす》になつてゐた。そして其處に集めも集めたり、無數の鯛が折り重なつて泳いでゐるのである。I――君は機船の人に問うた。
『なんぼほど居ります。』
『左樣千二三百も居りますやろ。』
おゝ、その千二三百の大鯛が、中には多少弱つてゐるのもあつたが、多くはまだいき/\として美しい尾鰭を動かして泳いでゐるのである。
その中から二疋を我等はわけて貰うた。小舟の漁師たちと機船の人たちとの間に何やら高笑ひが起つてゐたが、やがて漁師たちは幾度も頭をさげて小舟へ移つた。機船は直ぐ笛を鳴らして走り出した。聞けば彼女はこの瀬戸内の網場々々を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて鯛を買
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