ひ集め、生きながら船底に圍うて大阪へ向けて走るのださうである。
濱の松の蔭では忽ちに賑やかな酒もりが開かれた。うしほに、煮附に、刺身に、鹽燒に、二疋の鯛は手速くも料理されたのである。
いつか夕方の網までその酒は續いた。そしてたべ醉うた漁師達の網にどうしたしやれ者か、三疋の鯛がかゝて來た。よれつもつれつ、我等三人は一疋づつその鯛を背負うて、島の背をなす山の尾根づたひの路を二里ばかりも歩いた。歩いてゐるうちに月が出た。折しも十五夜の滿月であつた。峠から見る右の海左の海、どこの海にも影を引いて數多の島が浮んでゐた。斯くて今朝早朝に發動船で着いた船着場とは違つた今一つの港に着いて、其處から一艘の小舟を雇ひ、漕ぎに漕がせて宇野港へ歸りついたのは夜もよほど更けてゐた。可哀相に、其處まで送つて來てくれたM――老人は其處からまた島まで一人で歸るのであつた。晝間の酒をほど/\に切り上げて午後の定期の發動船に間に合ふ樣に老人の村まで歸つて居つたらば斯うした苦勞はせずとも濟んだであつたのに。
その三
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船子《かこ》よ船子よ疾風《はやち》のなかに帆を張ると死ぬがごとく
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