地と云つても、ほんの手で掬《すく》ふほどの廣さでM――氏に言はるゝままに注意して見るとその平地が小さく三段に區分されてゐるのが眼についた。それ/″\の段の高さおよそ三四尺づつで、茂つた草を掻き分けて見ると僅かに其處に石垣か何かの跡らしいものが見分けられた。段々になつた一番下の所に警護の武士の詰所があり、二番目が先づお附の人の居た場所、一番上の狹い所が恐らく上皇御自身の御座所ででもあつたらう、といふM――老人の解釋であつた。とすると、御座所の御部屋の廣さは僅かに現今の四疊半敷にも足りない程度のものであつたに相違ないのである。そして、一番下の警護の者の詰所から十間ほどの下には、黒い岩が露はれて波がかすかに寄せてゐた。あたりを見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しても嶮しい山の傾斜のみで、此處のほかには一軒の家すら建てらるべき平地が見當らない。同じ島のうちでも、全然家とか村とかいふものから引離された、斯うした所を選んで御座所を作つたものと想像せらるゝのであつた。斯ういふ窮屈な寂しい所に永年流されておゐでになつて、やがてまた四國へ移され、其處で上皇はおかくれになつたのだつたといふ。
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