と今度は信州路になつて野邊山が原といふのに入つた。これは、同じ八ヶ岳の裏の裾野をなすもので、同じく廣茫たる大原野である。富士の裾野の大野原と呼ばるゝあたりや淺間の裏の六里が原あたりの、一面に萱《かや》や芒《すすき》のなびいてゐるのと違つて、八ヶ岳の裾野は裏表とも多く落葉松《からまつ》の林や、白樺の森や、名も知らぬ灌木林などで埋つてゐるので見た所いかにも荒涼としてゐる。丁度樹木の葉といふ葉の落ちつくした頃であつたので、一層物寂びた眺めをしてゐた。
野邊山が原の中に在る松原湖といふ小さな湖の岸の宿に二日ほど休んだが、一日は物すごい木枯《こがらし》であつた。あゝした烈しい木枯は矢張りあゝした山の原でなくては見られぬと私は思つた。其處から千曲川《ちくまがは》に沿うて下り、御牧が原に行つた。この高原は淺間の裾野と八ヶ岳の裾野との中間に位する樣な位置に在り、四方に窪地を持つて殆んど孤立した樣な高原となつて居る。私は曾つて小諸町からこの原を横切らうとして道に迷ひ、まる一日松の林や草むらの間をうろ/\してゐた事があつた。
其處から引返して再び千曲川に沿うて溯《さかのぼ》り、終《つひ》にその上流、と
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