そのまま》捨てておくわけにゆかぬ、村の青年會は此頃殆んどその用事のみに働いてゐる位ゐだ、況《ま》して斯ういふ田植時にでも飛び込まれやうものならそれこそ泣顏《なきづら》に蜂だ、といふ風のことをわざとらしい高聲で話してゐるのだ。續いて近頃飛んだそれぞれの人の話が出た。大阪の藝者とその情夫、和歌山の呉服屋、これはまた何のつもりで飛んだか、附近の某村の漁師、とそれ/″\自殺の理由などまで語り出される頃は馬車の内外とも少からぬ緊張を帶びて來た。今まで私と同じくただ默つて聞いてゐた老人まで極めて眞面目な顏をして斯ういふ事を言ひ出した、人が自分から死ぬといふのは多くは魔に憑《つ》かれてやる事だ、だから見る人の眼で見るとさうした人の背後に隨いてゐる死靈の影がありありと解るものだ、と。
私は次第に苦笑の心持から離れて氣味が惡くなつて來た。何だか私自身の側にその死神でも密著《くつつ》いてゐる樣で、雨に濡れた五體が今更にうす寒くなつて來た。をり/\私の顏を竊《ぬす》み見する人たちの眼にも今までと違つた眞劍さが見えて來た樣だ。濡れそぼたれて斯うして坐つてゐる男の影が彼等の眼にほんとにどう映つてゐるであらうと
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