の河が、丁度、島のやうにその町やその隣村をかこんで流れてゐました。――今でも流れてゐますが。
町の西寄りのはづれに、城山といふ小さいけれど嶮しい山が孤立してゐました。名の示すごとくお城の跡の山で、千人殺などいふ高い石垣などもその一部に殘つてゐます。今は公園になつたとかでたいへん綺麗になつてゐるさうですが、わたしどもの少年の頃には草木の茂るにまかせた、荒れ廢れた舊城趾の山でした。
たゞ、頂上に鐘つき堂と堂守の小屋とがあり、一時間ごとに鐘をついて、町や村の人たちに時間を知らせてをりました。今でも多分殘つてをりませう。
三月のなかばすぎのよく晴れた日でありました。
わたしは村井の武《たけ》ちやんといふ、同じ級の仲好しの友だちと二人で、この城山に登つて遊んでをりました。丁度、學年試驗が昨日から始つたといふ日曜日のことでした。昨日濟んだ試驗は算術と圖畫とであつたことを不思議によく覺えてゐます。試驗最中に山に登つて遊ぶなどといふとひどく怠惰者のやうに聞えますが、たしかに二人とものんき者[#「のんき者」に傍点]ではありました。いや、現在でもひと一倍ののんきもの[#「のんきもの」に傍点]なので
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