花二三
若山牧水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)沈丁花《ぢんちやうげ》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぶよ/\した枝でなく、
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 梅のかをりを言ふ人が多いが、私は寧ろ沈丁花《ぢんちやうげ》を擧げる。梅のいゝのは一輪二輪づつ枯れた樣な枝の先に見えそめた時がいゝので、眞盛りから褪《あ》せそめたころにかけては誠に興ざめた眺めである。そしてその頃になつて漸く匂ひがたつて來る。もつとも一輪摘んで鼻の先に持つて來れば匂ふであらうがそれでは困る。何處に咲いてゐるのか判らない、庭木の日蔭に、または日向の道ばたに、ありともない風に流れて匂つて來る沈丁花のかをりはまつたく春のものである。相當な強さを持ちながら何處か冷たいところのあるのも氣持がよい。
 どちらかと云へば沈丁花は日蔭の花。それを日向の廣場に匂ふものとして見るべきものに菜の花がある。この花の匂ふところには必ずこの花と同じい色の蝶々がまつてゐるであらう。そしてその近くの何處かには麥畑の青さがあるであらう。そしてまた必ずその上には一羽か二羽の雲雀の聲が漂うてゐねばな
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