らぬ。
月並でも梅の一輪二輪は矢張り春のおとづれを知らすものである。それほどに目立つことなく、そして恐らくこれは北國に限られた花かも知れぬが同じ樣に春意を傳へるものにまんさくの花がある。花と云つてもほんの粟粒ほどの大きさで、同じくこまかなしなやかな冬枯の枝のさきにつぶつぶとして黄いろく咲きいづる。根はまだ雪や氷にとざされながら、細々として入りみだれた枝のさきに咲き出づる。永い間雪に包まれた人たちにとつては嘸《さぞ》かしこの見榮えのせぬさびしい花に心を惹かるゝことであらう。東京の植物園にも甘藷先生の碑のあたりに一本だかあつたとおもふ。
同じく北國で田打櫻と呼ばれてゐる辛夷《こぶし》の花も氣持のいゝ花である。木蓮に似てゐるがそれよりずつと小さく、木蓮の佛臭なく、色は白である。木蓮の樣にぶよ/\した枝でなく、まんさくに似た細い枝の、しなやかで而も雪に耐ふる強みを持つて落葉しはてた枝のさきに白々と咲くのである。枝がしなやかなせゐか、花の眞盛りとなると多くみな枝垂れて咲く。まんさくの寂しさなく、いかにもうらゝかな眺めを持つ。雪漸く消えて久し振に田圃の地面が見えだすころに咲くといふのでこの異名
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