四里近い長さを持つた松原である。この松原の他と違つてゐるのはその下草に種々の雜木が繁茂してゐる事である。松は多く二抱へ三抱への大きさで聳え立ち、その枝や幹の下蔭に實にいろいろな木が茂つてゐるのである。で、海岸の松原とはいふものゝ、中に入つてしまへばいかにも奧深い森林らしい感じがする。その雜木のなかにわたしは※[#「木+怱」、第3水準1−85−87]《たら》を見付けて喜んだ。
 ※[#「木+怱」、第3水準1−85−87]《たら》の芽はうまい。これも季節の味で、その頃になれば自づと思ひ出さるゝ。そしてなか/\手に入らぬものゝ一つである。この木は竿の樣な幹で、幹にとげを持つて居る。そして芽は幹の尖端に生ずる。枝を持つたのもあるが、先づ幹だけの一本立が多い。何しろとげだらけの幹を撓《たわ》めて摘むので、なかなか骨が折れる。そしてその芽のやゝ伸びて葉の形をなしたものには裏にも表にもまたとげを生じて居る。この木が不思議とこの松原の中に多いのだ。庭さきから林に入つて行けば早や四五本のそれを見るのである。晩酌の前に一寸出かけて摘んで來ることが出來る。但し、番人に見つかればこれは叱られるに相違ない。
 
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