。出來ないものは幾ら何と言つても出來ないんだからつて具合でな。全くどうも洒々《しあ/\》たるもんだ。」
「大悟徹底といふわけなんだらう。」
「さうかも知れない、それでなくてどうして毎日々々のあの債鬼に耐へられるもんか。然し洒々《しあ/\》と云つても何も惡氣のある洒々《しあ/\》ではないのだよ。だからあの亭主のやうにうまく對手を丸めて歸すとか何とかいふ手段をも一つも執ることが出來ないのだね。見給へ、細君一人の時に取りに來た奴なら何時でもあんな大聲を出すやうになる……」
と言つて、また暫くして、
「いや、それが出來ないのではなからう、爲《せ》んのだらう。負債も平氣、催促も平氣、嘲罵も近隣の評判も全然《まつたく》平氣なんだからな。少しも氣にかからんのだからな。」
「もうあれが習慣になつたのかも知れない。」
「習慣――幾らかそれもあるだらう。が、此家《ここ》が斯んなに窮してるのもほん[#「ほん」に傍点]の昨今のことだといふから、郷里に居た昨年頃までは立派に暮して來たんだらうぢやないか。してみるとさう早くあんなに慣れ切つて仕舞ふわけもない。」
と今は湯の事などは少しも頭にないらしく、いつしか
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