。夕方六時草津鐵道で立つてゆく私を見送らうといふのであつたが、要するにさうして皆ぐづ/\してゐたかつたのだ。土間つゞきのきたない部屋に、もう酒にも倦いてぼんやり坐つてゐると、破障子の間からツイ裏木戸の所に積んである薪が見え、それに夕日が當つてゐる。それを見てゐると私は少しづつ心細くなつて來た。そしてどれもみな疲れた風をして默り込んでゐる顏を見るとなく見廻してゐたが、やがてK―君に聲をかけた。
「ねヱK―君、君一緒に行かないか、今日この汽車で嬬戀《つまこひ》まで行つて、明日川原湯泊り、それから關東耶馬溪に沿うて中之條に下つて、澁川高崎と出ればいゝぢやないか、僅か二日餘分になるだけだ。」
みなK―君の顏を見た。彼は例のとほり靜かな微笑を口と眼に見せて、
「行きませうか。行つてよければ行きます、どうせこれから東京に歸つても何でもないんですから。」
と言つた。まつたくこのうちで毎日の仕事を背負つてゐないのは彼一人であつたのだ。
「いゝなア、羨しいなア。」
とM―君が言つた。
「エライことになつたぞ、然し、行き給い、行つた方がいゝ、この親爺さん一人出してやるのは何だか少し可哀相になつて來た。」
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