か今度の旅行計畫を心のうちですつかり變更してしまつてゐた。初め岩村田の歌會に出て直ぐ汽車で高崎まで引返し、其處で東京から一緒に來た兩人に別れて私だけ沼田の方へ入り込む、それから片品川に沿うて下野の方へ越えて行く、とさういふのであつたが、斯うして久しぶりの友だちと逢つて一緒にのんびりした氣持に浸つてゐて見ると、なんだかそれだけでは濟まされなくなつて來た。もう少しゆつくりと其處等の山や谷間を歩き廻りたくなつた。其處で早速頭の中に地圖をひろげて、それからそれへと條《すぢ》をつけて行くうちに、いつか明瞭に噸序がたつて來た。
「よし……」と思はず口に出して、私は新計畫を皆の前に打ちあけた。
「いゝなア!」
 と皆が言つた。
「それがいゝでせう、どうせあなただつてもう昔の樣にポイポイ出歩く譯には行くまいから。」
 とS―が勿體ぶつて附け加へた。
 さうなるともう一つ新しい動議が持ち出された。それならこれから皆していつそ輕井澤まで出掛け、其處の蕎麥屋で改めて別杯を酌んで綺麗に三方に別れ去らうではないか、と。無論それも一議なく可決せられた。
 輕井澤の蕎麥屋の四疊半の部屋に六人は二三時間坐り込んでゐた
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