の落葉松は枯芒よりいぶせくぞ見ゆ
下草のすすきほうけて光りたる枯木が原の啄木鳥《きつつき》の聲
枯るる木にわく蟲けらをついばむと啄木鳥は啼く此處の林に
立枯の木々しらじらと立つところたまたまにして啄木鳥の飛ぶ
啄木鳥の聲のさびしさ飛び立つとはしなく啼ける聲のさびしさ
紅ゐの胸毛を見せてうちつけに啼く啄木鳥の聲のさびしさ
白木なす枯木が原のうへにまふ鷹ひとつ居りて啄木鳥は啼く
ましぐらにまひくだり來てものを追ふ鷹あらはなり枯木が原に
耳につく啄木鳥の聲あはれなり啼けるをとほく離《さか》り來りて
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ずつと一本だけ續いて來た野中の路が不意に二つに分れる處に來た。小さな道標が立てゝある。曰く、右澤渡温泉道、左花敷温泉道。
枯芒を押し分けてこの古ぼけた道標の消えかゝつた文字を辛うじて讀んでしまふと、私の頭にふらりと一つの追憶が來て浮んだ。そして思はず私は獨りごちた、「ほゝオ、斯んな處から行くのか、花敷温泉には」と。
私は先刻《さつき》この野にかゝつてからずつと續いて來てゐる物靜かな沈んだ心の何とはなしに波だつのを覺えながら、暫くその小さな道標の木を見て立つてゐたが、
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