ゐるのも混つてゐる。見れば楢《なら》の木である。二抱へ三抱へに及ぶそれ等の大きな老木がむつちりと枝を張つて見渡す野原の其處此處に立つてゐる。野には一面に枯れほうけた芒の穗が靡き、その芒の浪を分けてかすかな線條《すぢ》を引いた樣にも見えてゐるのは植ゑつけてまだ幾年も經たぬらしい落葉松の苗である。この野に昔から茂つてゐた楢を枯らして、代りにこの落葉松の植林を行はうとしてゐるのであるのだ。
帽子に肩にしつとりと匂つてゐる日の光をうら寂しく感じながら野原の中の一本路を歩いてゐると、をり/\鋭い鳥の啼聲を聞いた。久し振りに聞く聲だとは思ひながら定かに思ひあたらずにゐると、やがて木から木へとび移るその姿を見た。啄木鳥である。一羽や二羽でなく、廣い野原のあちこちで啼いてゐる。更にまたそれよりも澄んで暢びやかな聲を聞いた。高々と空に翔《ま》ひすましてゐる鷹の聲である。
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落葉松《からまつ》の苗を植うると神代振り古りぬる楢をみな枯らしたり
楢の木ぞ何にもならぬ醜《しこ》の木と古りぬる木々をみな枯らしたり
木々の根の皮剥ぎとりて木々をみな枯木とはしつ枯野とはしつ
伸びかねし枯野が原
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