ゐる。その幹とてもすべて一抱への大きさで丈も高い。漸く今日あたりから一葉二葉と散りそめたといふ樣に風も無いのに散つてゐる靜かな輝かしい姿は、自づから呼吸を引いて眺め入らずにはゐられぬものであつた。二人は路から降り、そのさし出でた木の眞下の川原に坐つて晝飯をたべた。手を洗ひ顏を洗ひ、つぎつぎに織りついだ樣に小さな瀬をなして流れてゐる水を掬んでゆつくりと喰べながら、日の光を含んで滴る樣に輝いてゐる眞上の紅葉を仰ぎ、また四邊《あたり》の山にぴつたりと燃え入つてゐる林のそれを眺め、二人とも言葉を交さぬ數十分の時間を其處で送つた。
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枯れし葉とおもふもみぢのふくみたるこの紅ゐをなんと申さむ
露霜のとくるがごとく天つ日の光をふくみにほふもみぢ葉
溪川の眞白川原にわれ等ゐてうちたたへたり山の紅葉を
もみぢ葉のいま照り匂ふ秋山の澄みぬるすがた寂しとぞ見し
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 其處を立つと野原にかゝつた。眼につくは立枯の木の木立である。すべて自然に枯れたものでなく、みな根がたのまはりを斧で伐りめぐらして水氣をとゞめ、さうして枯らしたものである。半ばは枯れ半ばはまだ葉を殘して
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