答へる。答へるといふより唸るのである。三十秒ごとにこれを繰返し、かつきり三分間にして號令のもとに一齊に湯から出るのである。その三分間は、僅かに口にその返事を稱ふるほか、手足一つ動かす事を禁じてある。動かせばその波動から熱湯が近所の人の皮膚を刺すがためであるといふ。
この時間湯に入ること二三日にして腋の下や股のあたりの皮膚が爛れて來る。軈ては歩行も、ひどくなると大小便の自由すら利かぬに到る。それに耐へて入浴を續くること約三週間で次第にその爛れが乾き始め、ほゞ二週間で全治する。その後の身心の快さは、殆んど口にする事の出來ぬほどのものであるさうだ。さう型通りにゆくわけのものではあるまいが、效能の強いのは事實であらう。笛の音の鳴り饗くのを待つて各自宿屋から(宿屋には穩かな内湯がある)時間湯へ集る。杖に縋り、他に負はれて來るのもある。そして湯を揉み、唄をうたひ、煮ゆるごとき湯の中に浸つて、やがて全身を脱脂綿に包んで宿に歸つて行く。これを繰返すこと凡そ五十日間、斯うした苦行が容易な覺悟で出來るものでない。
草津にこの時間湯といふのが六箇所に在り、日に四囘の時間をきめて、笛を吹く。それにつれて湯
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