たべものの木
若山牧水
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)寢上戸《ねじやうご》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ひそ/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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私は寢上戸《ねじやうご》とかいふ方で、酒に醉ふと直ぐ眠つてしまふ。いまの晩酌が大抵五時半か六時から始つて七時半か八時に及ぶ。飮むだけ飮んでしまへばものゝ三十分と起きてはゐられないで床に潜る。そして午前の二時か三時、遲くも四時には起き上つて書齋に坐る。そのために其處には小さな爐が切つてあり、毎晩火が埋《い》けてある。
此頃は頭の工合も惡いため、讀書らしい讀書もせず、氣を入れてものを書くとか歌を作るとかいふこともしない。煙草を吸ひ、茶をいれ、新聞雜誌の選歌などをしながら夜の明けるのを待つ。
四人の子供のうち、上と下の兄弟は寢坊だが中の姉妹は早起きである。暫くは床の中でひそ/\とおしやべりをやつてゐて、やがて起き上つて私の部屋にやつて來る。五時前後である。無論雨戸はしまつてゐるし、どの部屋でもまだ寢靜まつてゐるので、此處に來るよりほかないのである。
今朝は私は割に早く起きた。ひどい雨の音である。火をねんごろにおこして、好きな雨を聽きながら赤ペンをとつてゐた。爲事《しごと》も捗《はかど》り、いつもより早目に私は酒の燗をつけた。朝爲事のあとで一杯飮むのも永い間の習慣である。嘗める樣にしてゐてもいつかうつとりと醉つて來る。其處へ姉妹揃つてやつて來た。机や爐の側に寄ると叱られるので、きまつて部屋の隅におさげとおかつぱの頭をつき合せながら幾度か讀みかへしたらしい繪雜誌などを開いて見始めるのである。無論おしやべりをすれば叱られる。それが今朝何やら頻りに小聲で話し始めた。憚りながらもツイ高目な聲で、十二よ、いゝヱ十三よ、と爭ひながら、めい/\に指を折りつゝ何やら數へてゐる。
『何だネ』
父親もツイ口を入れた。
『ねヱ阿父さん、うちの庭にあるたべものゝ木は十三本だネ』
『違ひますよ、やまざくらの實はたべられるにはたべられるけど、たべものの木ではないわねヱ、あれは花の木だねヱ』
父親も數へ始めた。子供たちの氣のつかないのも幾つも出て來たが、サテ愈々幾本とはなか/\きまらなかつた。
『よし、其處で言つてごらん、阿父さん書いてゆくから』
子供
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